展覧会アーカイブ

  • 宮崎学 自然の鉛筆

    宮崎学は70年代始めから自作の赤外線センサー付きロボットカメラを使い、森のヴェールに覆われた野生動物たちの姿を撮影してきた写真家です。狩人のような洞察力と最新鋭の機材を駆使することによって、動物自身にシャッターを切らせることを可能にしてきました。

    本展のタイトルは、写真術の発明者の一人であるウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットの世界初の写真集『自然の鉛筆』から付けられています。「自然の鉛筆」というタイトルには自然(光)が自ずから描く自画像としての写真という意味が込められており、宮崎の手法とも重なるものです。宮崎はこれまで黙して語らぬ自然を写真という視覚言語に翻訳してきましたが、近年人間の生活空間の近くに出没する野生動物や人間の手によって持ち込まれた外来動物の姿は、現代社会を映し出す鏡のようにも見えます。

    美術館での初個展となる本展では、第9回土門拳賞を受賞した「フクロウ」をはじめ「けもの道」「死」「柿の木」「イマドキの野生動物」シリーズなど代表作約170点を展示します。「自然界の報道写真家」による知られざる野生動物たちの姿をご覧下さい。

    会期 : 2013年1月13日(日)― 4月14日(日)

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  • 松江泰治展 世界・表層・時間

    松江泰治はこれまで世界中の地表̶山岳、砂漠、森、都市̶を捉えてきました。光が地表を均一に照らし出す時間帯に撮影することで、画面から影や地平線が排され、情緒性は注意深く削ぎ落とされています。見る程に細部がたち現れる精緻な画面は、人間的なまなざしの不確実さと不思議さをあらためて体験させてくれます。
    松江は世界各地を車で移動し写真の制作を続け、2004 年からカラー作品を発表しました。これまでの松江作品はタイトルにシティ・コードが付けられた都市を被写体にした「CC」シリーズと、ALPS などの地名が付けられた「gazetteer」(地名辞典の意)のシリーズに大別することができますが、新たな展開として 2010 年から発表された映像作品があります。一見静止画のように見えるこうした作品は一定時間見続けると、細部の変化によって動画だと分かるような「動く写真」とも評されるものです。
    本展では、新作を中心に約 50 点で構成し、映像作品についてもこれまでの最多となる 9 作品を展示予定です。
    静止画と動画の境界において豊かな広がりをみせる松江泰治の世界を体感ください。

    会期 : 2012年8月5日(日)-12月25日(火)

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  • 荒木経惟写真集展 アラーキー

    「写真集こそが写真である。」
    荒木経惟はその写真家人生において、これまで実に400冊以上に及ぶ写真集を制作してきました。これは世界的にも他に類を見ないことであり、写真集こそ写真家としての活動の核であるという荒木の信念と他の追随を許さないエネルギーに基づいたものです。また、「アナーキーになりたくてアラーキーと名付けた」という荒木は、その最初期から過激なヌード写真を発表するなど、常にセンセーショナルな話題をふりまき、世間の注目を集めてきました。大量の写真集を途切れなく出版し続けながら、それまでカメラの背後に隠れていた撮影者の姿をもメディアに露出することで、カメラマンでもアーティストでもない「写真家」と呼ばれる存在を確立し、定着させました。このことは写真集をベースにした日本の写真文化を独自のものとし、今日の世界的な評価にも繋がっています。

    本展では荒木が電通勤務時代に制作したスクラップブックから最新刊にいたる400冊以上の写真集のほぼ全てを、来館者が直接手に取ることができるように展示いたします。書籍のデジタル化が進む今日、紙やインクに触れ、臭いをかぎ、ページをめくるという体験を通して、通常の写真展だけでは捉えがたい「アラーキー」の全貌に迫り、日本の写真文化や出版文化の独自性を肌で感じる機会となれば幸いです。

    会期 : 2012年3月11日(日)-7月22日(日)

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  • 野口里佳 光は未来に届く

    地平線にたたずむ小さな人の影。屋根の上を歩く人。水の上に浮かぶ葉とそこに映る光。日本で宇宙に一番近いところ、富士山、その頂上から見えるもの̶小さな宇宙と大きな宇宙、微視と巨視を行き来する独自の視点で、野口里佳は不思議さに溢れたこの世界を写しとります。地球と人間の謎に触れるような対象の選択、透明感のある色彩と優美で詩情豊かな表現力は、これまでに国内外から高い評価を得てきました。
    野口が作品を発表しはじめた 1990 年代前半の日本は、コンパクトカメラの普及など写真を取り巻く環境が大きく変わり、新世代といわれる写真家が登場した時代です。その中でも独自のスタイルで写真という視覚領域を追求する野口は早くから注目を集めました。国際的な現代美術展で紹介されることも多く、その活動は写真と現代美術の両領域にわたります。野口の制作の姿勢は、写真というメディアの自由さへ迫ろうとするものであり、それは今回の最新作での意欲的な探求にもつながります。
    眼前の現実にひそむ謎にアプローチする力としなやかさ。野口の作品世界は、 見る者にこの世界の魅力を気づかせます。

    本展では野口の出発点といえる初期作品から未発表・最新作までを展覧いたします。
    カメラという機械を使い、写真独自の「光の画」を追求し続ける野口里佳の世界をぜひご覧ください。

    会期 : 2011年9月11日(日)-2012年3月4日(日)

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  • 富士幻景 富士にみる日本人の肖像

    日本人の心象風景

    富士山は古来より特別な山として愛されてきました。ある時は信仰の対象として、またある時は日本のシンボルとして、人々は美しい稜線を持つその山にそれぞれの思いを託してきました。富士山の姿は変わらずとも、それをまなざす人々の心情や時代状況によってこれまで多様な富士が生み出されてきました。本展では幕末・明治の富士、外国人から見た富士、万博と富士、戦中の富士、現代美術の富士など、時代とともに千変万化してきた富士の姿をはじめとしたさまざまな印刷物を通して概観します。

    19世紀半ばにフランスで発明された写真は幕末期に日本に伝わりました。その意味で幕末から現在にかけて数多く撮影されてきた富士の写真は、近代日本を写す鏡であり、近代日本人の自画像であるといえます。本展は富士山近郊に位置するIZU PHOTO MUSEUMで継続していく「富士から見る近代日本」シリーズの第一弾となります。(出品点数:約300点)

    出品作家(敬称略)
    下岡蓮杖 F.ベアト R.スティルフリード H.G.ポンティング A.ファサリ W.ハイネ 日下部金兵衛 水野半兵衛 鈴木真一 玉村康三郎 岡田紅陽 小石清 濱谷浩 東松照明 英伸三 森山大道 藤原新也 杉本博司 大山行男 松江泰治 野口里佳 土門拳『ペリー提督日本遠征記』「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」「写真週報」絵はがき 幻燈ガラス原板 立体写真 伝単 ほか

    会期 : 2011年6月9日(木)-9月4日(日)

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  • 母たちの神―比嘉康雄展

    比嘉康雄(ひが・やすお)は、沖縄を代表する写真家の一人であると共に、民俗学の分野でも大きな功績を残した人物です。比嘉は1968年の嘉手納空軍基地でのB25爆撃機墜落事故をきっかけに警察官を辞め、写真家になることを選びました。ベトナム戦争や日本への「復帰』に揺れた激動期の沖縄を象徴する写真家だといえます。
    撮影の仕事で訪れた宮古島で出会った祭祀に衝撃を受け、沖縄文化の古層に惹きつけられていった比嘉は、「神の島」と呼ばれる久高島をはじめ、南は八重山諸島から北は奄美諸島に至る琉球弧の島々に関する膨大な記録を残すことになります。2000年に亡くなるまで、失われつつあった祭祀とそれを行う女性(母)たちの威厳に満ちた姿を丹念にカメラにおさめながら、琉球弧の精神文化の祖型を探っていきました。写真に写されたのは世界にあまり類を見ない一種の女神信仰・母性原理の祭祀であり、中には男子禁制の秘祭も多くあります。本展では、生前に比嘉の手で編まれたものの、未刊に終わった写真集「母たちの神」から全162点を紹介いたします。祖霊信仰、自然信仰に基づいた村落ごとの祭祀の多くはすでに変容し、途絶えてしまったものも少なくありませんが、残された写真は琉球弧の神々の豊穣な世界を現在に伝えてくれます。
    本展は、沖縄県立美術館で開催された「母たちの神」展(2010年11月2日~2011年1月10日)の巡回展となります。

     

    会期 : 2011年1月23日(日)-5月31日(火)

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  • 木村友紀「無題」

    IZU PHOTO MUSEUMでは2009年末の開館以来、写真の多様性をつたえる展覧会を開催してまいりました。写真術の誕生に着想をえた杉本博司「光の自然(じねん)」展、また歴史のなかで見過ごされてきたような日常的な写真にスポットライトをあてた「時の宙づり—生と死のあわいで」展につづき、現代美術作家木村友紀の美術館での初個展を開催いたします。

    京都を拠点に活動する木村は、現代美術の文脈の中で写真や映像を素材として扱い、時間やイメージにまつわる分析と思考を、平面、立体、展示空間へとひろげる作品を発表し続けてきました。第6回イスタンブール・ビエンナーレ(1999年)への参加を皮切りに海外グループ展や主要アートフェアに参加、次世代のアーティストに注目する国内外の評論家・キュレーターを中心に、着実に評価を高めています。

    すべて新作となる本展は「無題」と名付けられました。このタイトルのとおり、木村はこれまでの活動の中でゆっくりと熟成させてきた、イメージと支持媒体との関係や写真の事後性などについての考察を、ストーリーやキーワードを排し、作品そのものによって、より実践的に表現しようとしています。またそこには中心的なイメージは無く、配置された個々のイメージが生み出す効果の発揮するままに様々な方向へと展開しながら、その空間全体が一つのインスタレーション作品として成立します。

    ここで使われている写真は、木村自身が旅行中に撮影したもの、祖父のアルバムの中に見つけたもの、世界各所の様々な街で買い集めたもの、友人から贈られたものなど、別々の経緯で作家の手に渡り、それぞれのテーマに沿って厳選されています。木村は配置という単純な作業を分析的に捉えながらそれを行うことで、写真が指し示す「過去」の画像と画像、あるいは画像とオブジェを関係づけ、現前する空間につなぎとめようとします。そうして、インスタレーション「無題」には、今ここにしかない「現在性」が鮮やかに立ち現れるのです。

    会期 : 2010年9月5日(日)-2011年1月11日(火)

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  • 時の宙づり—生と死のあわいで

    このたびIZU PHOTO MUSEUMでは、4月3日(土)より、国際的に注目を集めるジェフリー・バッチェンによって企画された「時の宙づり—生と死のあわいで」展を開催いたします。本展は写真の歴史の中でしばしば見過ごされてきた、日常的な写真にスポットライトを当てるものであり、そのような“忘れられた写真”の意義を考察する日本で初めての本格的な展覧会となります。

    とりわけ焦点となるのは、写真が過去と現在とが絡まり合った複雑な時間の中へと被写体を投げ込み、生と死の間で宙づりにする能力です。無名の職人や家族の手によってつくられたそれらの写真の多くは、調度品や装身具として日常的に触れられたり、家庭の中で亡き人を偲ぶよすがとなってきました。遺された写真にさまざまに手を加えることで、そこに特別なまなざしを注いできた人々の思いを垣間見ることができます。美術案や学問の領域にではなく、家庭や人々の心の中に存在していた写真の展示は、これまでの美術館や写真史というものが何であったかという問いをも含んだものになるでしょう。デジタル写真とは異なる、モノとしての存在感を強く発するヴァナキュラー(ある土地に固有)写真の魅力をご堪能ください。

    欧米のダゲレオタイプ(銀板写真)、写真付きアクセサリー、メキシコの写真彫刻、日本の湿版写真、アルバムのスナップ写真など日本初公開の、計300点以上を展示予定。日本初公開の貴重なコレクションです。

    会期 : 2010年4月3日(土)-8月20日(金)

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  • IZU PHOTO MUSEUM 開館展 杉本博司―光の自然

    このたびIZU PHOTO MUSEUMでは、2009年10月の開館記念として「杉本博司 光の自然(じねん)」展を開催いたします。国内外で高い評価を受けてきた杉本博司は、近年建築のプロジェクトに関わるなどその活動の幅を広げており、今回は自身が手掛けた初の美術館空間における自作の展示となります。

    展示内容は写真術のパイオニアの一人、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットへのオマージュともいうべき写真からなります。タルボットが残した紙ネガから170年という時を経て、浮かび上がる<光子的素描:フォトジェニック・ドローイング>は、ネガという楽譜の杉本の手による変奏であり、今まさに消えようとしている像を転写・継承する試みでもあります。
    またフィルムに直接電流を流すことで、その光跡を焼きつけた<放電場:ライトニングフィールド>は、科学者でもあったタルボットが中断した放電実験から影響を受けています。
    今回の「光の自然(じねん) NATURE OF LIGHT」展は、世界初の写真集となったタルボットの『自然の鉛筆(The Pencil of Nature)』とも共鳴しながら、自然が自ずから描く自画像という写真の起源を喚起します。「写真についての写真」を表現し続ける現代美術作家による、銀塩写真へのレクイエムをぜひご覧ください。
    本展では、新作<光子的素描:フォトジェニック・ドローイング>11点、新作<放電日月山水図>(六曲一双)を展示予定しています。

    会期 : 2009年10月26日(月)-2010年3月16日(火)

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